オフィスマーケットに底入れの兆し?
新型コロナウイルスのパンデミックを機に、ハイブリッド勤務やリモートワークが広く採用されたことで、企業はオフィススペースを縮小し、全米のオフィス市場は未曾有の高空室率を記録しました。ところが、2024年半ばからいくつか底入れの兆しが見られるようになりましたのでご紹介します。
一つ目は、テナントが新たにリースして入居したオフィススペースと、退去して空いたオフィススペースの差分を表す指標であるNet Absorptionです。CBREによると、Net Absorption は2024年第2四半期に240万平方フィートに上り、同年第一四半期の▲101万平方フィートから強く上昇しました。2022年第3四半期から初めてプラスに転じました。
二つ目はSublease Availability Rateです。この指標は企業の経営判断をいち早く反映しやすく、賃貸オフィスマーケットの先行きを示すヒントになりやすいのですが、CBREによると、Sublease Availability Rate は2024年第2四半期、在庫全体の4.2%まで低下(前年同期は4.7%)しました。Sublease スペースは2024年第2四半期は1億7500万平方フィートと、ピークの2023年第2四半期から11%も減少しました。
特に大打撃を受けたマンハッタンやサンフランシスコのような大都市でもいくつか注目すべき改善の兆しが見えてきました。
Colliersによると、マンハッタンのオフィス空室率は2020年の9.3%から2024年半ばに12.6%に上昇しました。ところが、2024年前半期(1~6月)にリースされたスペースは、前年同期と比べて15.9%も上昇しました。クラスA物件は最も需要が高く、2024年第2四半期にはリース全体の76.2%に上りました。
また、Costarによると、2024前半期に一万平方フィートを超えるオフィス契約は258件(計730万平方フィート)に上りました。昨年同期と比較すると、契約数は21%増、オフィススペースは49%増を記録しました。これはいくつか大型契約があったことを示しており、いずれのケースもミッドタウンの築浅もしくは近年改築された「質の良い」オフィス物件でした。
IT産業が盛んなサンフランシスコは新型コロナウイルスの影響を特に大きく受けました。オフィス空室率は、2020年の13.1%から2024年半ばに30%にまで上昇しました。ところが、2024年前半期には新しいリースや更新を含む賃貸契約の総量が計310万平方フィートに上るなど、すでに2023年一年間分を超えるペースで増加しています。Net Absorptionは依然としてマイナスであるものの、大きく改善してきており、プラスに転じるのも時間の問題と言われています。近年注目を集めるAI産業の台頭を含めてIT産業が活発な上、金融産業など多種多様な産業も盛んなサンフランシスコでは、パンデミック前よりもオフィス需要が伸びています。このように2大都市において、オフィス市場の回復の兆しが見られるようになりましたが、この傾向は今後も続くと予想されています。
Source: Costar
オフィス需要の増加は、ビルを所有するオーナーやデベロッパーからも聞こえてきます。フィラデルフィアやテキサス、ワシントンDCで計2,200万平方フィートを超えるスペースをリースするBrandywine Realty Trust(フィラデルフィア)は2024年第一四半期に行ったテナントツアーは、前四半期の約50%増を記録したと報告しています。全米最大のオフィス所有者の一つ、ボストンプロパティーズ(ボストン)は2024年第1四半期、平均リース期間が11.5年を超え、新型コロナウイルスのパンデミック以降最長であると報告しています。マンハッタンで最大のオフィス所有者であるVornado Realty TrustおよびSL Green Realtyは、第1四半期の決算説明会で、ハイテク業界からのオフィス需要が高まり始めていると述べています。
オフィス需要増加の背景には企業側の心理変化もあるようです。リモート勤務が定着した今、オフィスに通勤してもらえるよう、従業員がどこでどのように働きたいかを企業が重要視しています。世界最大級の建築・デザイン事務所Gensler(サンフランシスコ)のGlobal Co‑Chairであるダイアン・ホスキンス氏は「オフィスへの通勤を義務ではなく、通勤をする価値があると思える良質なオフィス作りへの投資をする企業が増えています」とCostarに語っています。
最後に、オフィス需要を押し上げる要因として、最近サンフランシスコやニューヨーク、シアトルなどの都市において、AI産業が新たなオフィスユーザーとして台頭してきていることが注目されています。CBREによると、これらの都市はAI人材の宝庫で、全米のAI関連雇用の44%を占めています。新型コロナウイルス禍以降、低迷を続けていたオフィスマーケットは今後どう動くのか注目を集めています。