トランプ氏の勝利、商業不動産業界への影響は?
「米国第一主義」を掲げるドナルド・トランプ氏が大統領に再当選しました。トランプ氏の当選後、各市場は早くも反応し、ドル高やエネルギー関連株の上昇など、いわゆる「トランプトレード」と呼ばれる現象がすでに活発化しています。こうした動きは間接的に商業不動産にも影響を及ぼすと見られており、トランプ次期大統領が掲げている経済政策の影響に業界の注目が集まっています。
今回は、「大規模減税」、「規制緩和」、「関税の引き上げ」、そして「移民の流入規制」という4つの切り口に焦点を当てて商業不動産業界への影響を見ていきたいと思います。
大規模減税
法人税率の引き下げをはじめ、Opportunity Zones(税制上の優遇措置を通じて経済的に困窮している地域への投資を誘致するプログラム)やパススルー事業体に対する税金控除、キャピタルゲイン税の引き下げなど広範囲での減税が予想されています。減税による恩恵を受けて、企業は事業を拡大したり、投資活動を活発化させたりすることで、商業不動産の売買取引が増加すると見られています。
また、商業不動産業界ではオフィス勤務推奨の動きが進む中、「高品質」なオフィスへのニーズは特に高まっており、減税による恩恵を受け、リノベーションや再開発に積極的なビルのオーナーも増えるだろうと期待されています。
一方で、減税は短期的には景気にプラスに働くものの、長期的視点で見ると政府の税収が減るため財政赤字を拡大させます。そのため、連邦準備理事会が金利を引き上げる可能性があり、延いては商業不動産取引の停滞を招くと危惧する声もあります。トランプ氏は金利を引き下げる必要性を強調していますが、どこまで減税を実行できるのかは不透明です。
規制緩和
国内産業の強化を掲げるトランプ次期大統領政権下では、国内の生産と流通のニーズが活発化すると期待されています。不動産テックのCompass(本社:ニューヨーク)の副会長アデレード・ポルシネリ氏は、そうした国内ニーズに応えるため、「物流拠点や倉庫、製造施設などの商業スペースの需要は高まるだろう」と語っています。
一方の供給サイドは、規制緩和によりスムーズに開発が進むと期待されています。ディベロッパーのAurora Capital Associates(本社:ニューヨーク) のジャレッド・エプスタイン社長 は「多くの業界が規制強化に直面している中、トランプ次期大統領による規制緩和で不動産開発業者は救われるだろう。規制緩和が進むことで、より早く、そしてより手頃な価格での開発が可能になるだろう」と物件開発への意欲を語っています。
ただし、後述する「輸入関税の引き上げ」や「移民の流入規制」が開発業者にネガティブな影響を与えることも懸念されているため、規制緩和による恩恵がどこまでプラスに働くかは今後のマーケット状況次第といえます。
輸入関税の引き上げ
トランプ氏は大統領選で中国からの輸入品に60%、それ以外の国・地域からの輸入品には10~20%の関税を課す方針を示唆していました。この提案が実現すれば、商業不動産業界は建設コスト高による打撃を免れないでしょう。米国際貿易委員会によると、関税の引き上げにより鉄鋼とアルミニウムの平均価格はそれぞれ2.4%、1.6%増加すると見られており、資材を多く使う商業不動産価格も押し上げられると警戒されています。
加えて、輸入関税引き上げはインフレ要因の1つとなりますので、金利の上昇が影響し商業不動産市場の停滞を招く可能性は懸念されています。その一方で、関税を回避しようと、企業が工場を米国内に移転するなど、商業不動産の需要は高まる可能性があり、需要と供給のバランスが現在と逆転する可能性を秘めています。
移民の流入規制
移民の減少は、ラテン系人が多い建設業界での労働力に枯渇を招き、開発業者は人件費の上昇や建設コスト高、工期の遅れなどに直面するだろうと懸念されています。インフレが加速するアメリカ国内でさらなる物価上昇が生じれば、経済は大きく混乱するでしょう。その結果、利上げ圧力も高まり、商業不動産業界へのさらなる打撃となるでしょう。一方で国内景気の視点においては、米国内での失業率が改善されるなど良い面も期待できます。
まとめ
不動産市場に対するトランプ次期大統領の潜在的な影響力にはさまざまな可能性があります。トランプ次期大統領の政策が功を奏せば、国内産業および物流業が活性化し、特にインダストリアル系の商業不動産へのニーズが高まることが予測されます。その反面、関税引き上げや移民規制によるインフレ、金利上昇などによる打撃は否めません。
トランプ次期大統領の経済政策は商業不動産業界にとって諸刃の剣であり、どちらに影響を及ぼすかの見極めは難しく、業界関係者にとって適応力がさらに不可欠です。2025年以降も、リダック商業部では引き続き業界の動きを注視し、日系企業の皆様を適切にサポートできるよう努めていきたいと思います。