大丈夫?急増するオフィスの不良資産(ディストレス)化に注意!
急増するディストレス(Distressed)商業不動産
商業不動産が金利上昇とオフィス需要の低迷に見舞われる中、今年に入ってリースの債務不履行や滞納が増えています。ニューヨーク市などの大都市では、こうしたファイナンスが著しく悪化している「ディストレス(不良資産化)」物件のバーゲンセールが増えており、買い時を逃がすまいと投資活動が活発化しています。一方、ニューヨーク市では、住宅供給不足を解消しようと、オフィスから住宅に改築される動きに期待が集まっています。
商業不動産の中でも、特にリテールだけでなくオフィスのディストレスが目立っています。データサービスのCRED iQによると、オフィス市場全体のディストレス率は、2023年1月の4.4%、同年7月の7.9%から2024年6月時点で11.5%と大幅に増加しています。
【物件タイプ別 ディストレス率のまとめ(6.30.2024)】
(Source: CRED iQ)
不動産会社向けソフトウエア開発会社の大手YardiによるCommercialEdgeが発表した7月のマーケットレポートによると、最近満期を迎えた、もしくは2026年までに満期を迎えるオフィスローンは2600億ドル(オフィスローン全体の30% – 1万2000件を占める)を超えます。データサービスのTreppによると、今年6月に新たに滞納した額は18億7000万ドルに上るなど、ディストレス化がますます深刻になると危惧する声もあります。
近く満期を迎えるローンは主にトップレートの物件、かつ大都市に集中しています。高品質なオフィスビル(良い立地やアメニティが充実したオフィス)を除いて、多くの借り手(ビルオーナー)はローンの支払いに苦戦しており、1645億ドル(全体の62.6%)は都市部、1877億ドル(全体の71.4%)はClass Aタイプが占めています。潜在的なディストレス物件は今後もますます増えるだろうと見られています。
ディストレス物件の増加に伴って、通常の価格から大幅に値下げをして売り出すオーナーが増えています。プライベート・エクイティなどの投資家は今が買い時だと見ており、売買が活発化しています。
CommercialEdge によると、2024年1~6月までの国内取引総額は137億ドル(平均取引額は$172/平方フィート)に上ります。その中で最も取引額が大きい都市はマンハッタン(14億800万ドル)、続いてワシントンDC(13億3500万ドル)、ベイエリア(10億500万ドル)と、大都市に集中していることから、将来回復への期待が伺えます。しかしながら、高いリスクを伴う資産クラスに特化している投資会社のOaktree Capital Management(ロサンゼルス)にアドバイスをしているフロリダ・アトランティック大学のリーベル・コール教授(ファイナンス専門)は、現状と過去の金融危機の初期とを比べ、「現在の状況はファーストもしくはセカンドイニングにまだいる」と述べ、今後もディストレス物件への投資が続くと見ており、回復まではまだしばらく時間がかかりそうです。
【商業不動産の米国内取引総額(2024年1~6月)】
(Source: CommercialEdge)
一方、ニューヨーク市では2023年8月からOffice Conversion accelerator program(オフィスから住宅に改築するプログラム)が始動しています。低迷するオフィス需要と住宅不足が解決されると期待されています。CBSによると、今年1月時点でのオフィスの空きスペース(ニューヨーク市)は9500平方フィートに上ります。 New York City Department of Housing Preservation and Development (HPD) が今年2月に発表した2023年のデータによると、市内のアパートの空室率は1.4%と、計測が始まった1968年以来最も低い数値を記録しました。
Office Conversion accelerator programでは、現在ニューヨーク市内の46物件がオフィスから住宅にコンバージョンされる見込みです。そして、さらに64物件のオーナーが検討中とのことで、今後より一層活発化する見込みです。ニューヨーク市はコンバージョンを促進するため、手続きやゾーニングに関する規定を簡略化するなどして、2033年までに4万人分のアパートを確保できることを想定しています。
ニューヨーク市ではディストレス物件への投資家による売買やオフィスから住宅への改築が盛んに行われているため、こうした最新動向を注視し、ご入居ビルの最新状況を把握しておくことが重要です。オーナーのこうした動きにテナントの立場で抵抗することは基本的に難しいのですが、出来る限り事前に予期し備えることは出来ます。不穏なレターやオーナーが急に経費を削減している様子(例えばトイレットペーパーが薄くなる、受付の時間短縮、受付のスタッフの質が落ちたなど)があった際には、専門業者に相談することをお勧めます。弊社ではリスク管理を徹底し、最新動向を踏まえた物件をご紹介しています。