今どきのオフィストレンド ー出社回帰の日米比較と、これからのオフィスに求められるものー
コロナ禍を経て、企業の働き方は大きく変化しました。リモートワークやハイブリッド勤務が急速に普及した一方で、近年は日米ともに「出社回帰(Return to Office:RTO)」の流れが進んでいます。
もっとも、企業が目指しているのは、単に社員をオフィスへ戻すことではありません。AIの活用や働き方の多様化が進む今、オフィスは「仕事をする場所」から、「人が集まり、協働し、新たな価値を生み出す場所」へと役割を変えつつあります。
本稿では、日米の最新データをもとに出社回帰の現状を整理し、企業の成長を支えるこれからのオフィスのあり方について考察します。
1. 出社回帰(RTO)の状況
米国では、リモートワークやハイブリッド勤務を完全に廃止するというよりも、一定の柔軟性を残しながら出社日数を増やす動きが広がっています。Flex Index社が米国内9,000社超を対象に実施した「Flex Report Q3 2025」によると、リモートまたはハイブリッド勤務を含む柔軟な働き方を認めている企業は、米国全体で約7割に上ります。
この結果は、米国企業が出社を重視しつつも、働き方の柔軟性を一定程度維持していることを示しています。つまり、米国における出社回帰は「完全なオフィス勤務への回帰」ではなく、オフィス勤務と柔軟な働き方を組み合わせる方向で進んでいるといえます。
グラフ1:米国企業における勤務形態の状況
一方、実際のオフィス利用率を見ると、回復には地域差があります。Kastle Systems社のデータによれば、米国主要10都市のオフィス平均利用率は、コロナ禍の2020年には20%以下まで落ち込みましたが、現在は55%前後まで回復しています。
ただし、出社率は都市によって大きく異なります。2026年5月28日から6月3日の週における主要都市別の出社率を見ると、Austin、Dallas、New York Metroなどでは比較的高い水準となる一方、Los Angeles Metro、Philadelphia Metro、San Francisco Metro、San Jose Metroなどでは低い水準にとどまっています。
この差は、産業構造、通勤環境、企業文化、オフィス立地などが出社率に影響していることを示唆しています。したがって、出社回帰を考える際には、全国平均だけでなく、各都市や各企業の事情に応じたオフィス戦略が重要になります。
GenslerのGlobal Workplace Surveyでも、オフィスは依然として重要な勤務場所であることが示されています。同調査によると、平均的な社員は1週間のうち55%の時間をオフィスで勤務し、26%をクライアント先や出張先などで過ごし、在宅勤務の割合は18%にとどまっています。
つまり、働く場所は多様化しているものの、オフィスは依然として社員が最も多くの時間を過ごす中心的な拠点であり続けています。
2. 日本における出社回帰の特徴
日本でも出社回帰の動きは明確です。東京都が2026年4月に都内企業を対象に実施したテレワーク実施状況調査によると、柔軟な働き方を認めている企業の割合は約4割にとどまりました。これは、米国の約7割と比べて低く、またコロナ禍における6割超の水準からも大きく低下しています。
この結果から、日本では制度面でも出社を前提とした働き方へ戻る動きが、米国以上に強く表れていることが分かります。米国ではハイブリッド勤務を前提にしながら出社日数を増やす企業が多い一方、日本ではテレワーク制度そのものを縮小する企業が増えている点が特徴です。
グラフ3:東京都内企業におけるテレワーク実施率の推移
また、アスノシステムが2026年5月に就労者300人を対象に実施した「出社回帰と会議の変化」に関する調査では、現在の出社頻度について、全体の62%が「ほぼ毎日出社」と回答しました。
出社率の上昇は、オフィス市場にも影響を与えています。三鬼商事の調査によれば、東京都心部のオフィス空室率は2026年4月時点で2.2%となり、前年同月の3.73%から低下しました。働き方の変化は、企業のオフィス需要にも確実に反映され始めています。
3. 社員や経営層はどのように感じているのか
出社回帰が進む一方で、多くの企業ではオフィス環境に対する新たな課題も浮き彫りになっています。重要なのは、社員が単に「出社したくない」と感じているのではなく、「出社するなら働きやすい環境が必要だ」と考えている点です。
Genslerの調査によると、約7割の社員が、自分のワークスペースの課題を解決するために、送風機や照明を追加するなど、自ら工夫を行っています。また、会議室不足により会議をキャンセルしたり、オープンスペースで通話やオンライン会議を行わざるを得ないケースも見られます。さらに、フリーアドレス利用者の約6割は「固定席が欲しい」と回答しています。
これらの結果は、出社率が高まるほど、オフィスの質が社員満足度や生産性に直結することを示しています。出社を促すだけでは十分ではありません。社員がオフィスに来る意味を感じ、集中・協働・交流を行いやすい環境を整えることが求められます。
一方、日本では、アスノシステムの調査によると、出社回帰に対して大きな不満を感じている人は比較的少なく、約6割が困ることは「特にない」と回答しています。個室ブースの不足や通勤時間の増加に不満を持つ割合も、それぞれ13%程度にとどまりました。
グラフ4:日本における出社回帰に関する意識
ただし、日本で現時点の不満が限定的であるからといって、オフィス環境への投資が不要というわけではありません。今後、出社頻度がさらに高まれば、会議室不足、集中スペース不足、コミュニケーションの質といった課題がより顕在化する可能性があります。
実際に、東京都内のあるスタートアップ企業では、社員同士の交流を重視したオフィスづくりを進めた結果、「出社が楽しそう」という理由で地方から転居してきた社員もいたといいます。オフィスは、単なる勤務場所ではなく、人材の採用・定着、組織文化の醸成にも影響を与える経営資源になりつつあります。
4. 企業の発展を支えるオフィス環境とは
では、企業の成長を支えるオフィス環境とは、どのようなものでしょうか。McKinseyは、企業の発展を左右するのは「どこで働くか」そのものではなく、「どのような環境で働くか」であると指摘しています。
つまり、出社そのものが目的なのではありません。社員が集まることで、協働、つながり、創造性、育成、スキル開発といった価値を高められるかどうかが重要です。McKinseyは、働きやすい職場環境の条件として、以下の5つの要素を挙げています。
- Collaboration(協働)
- Connectivity(つながり)
- Innovation(創造性)
- Mentorship(育成)
- Skill Development(スキル開発)
これらの要素を実現するには、単にデスクを並べるだけでは不十分です。社員がどのような行動を取り、どのような空間がそれを支えるのかを具体的に考える必要があります。
このように考えると、オフィスは単なる固定費ではなく、社員の行動を設計し、組織の成果を高めるための経営基盤であることが分かります。特に出社回帰が進む局面では、社員が集まることでしか生まれない価値を、いかに高められるかが重要になります。
5. AI時代に、オフィスに求められるもの
近年は、企業が人材投資だけでなくAI投資を重視する傾向が強まり、米国の名門大学を卒業しても就職が難しい時代とも言われています。AIの活用が進めば、定型業務の効率化や少人数での生産性向上が期待されるため、将来的には、従来よりも小規模で、かつ機能性の高いオフィススペースへの需要が高まる可能性があります。
一見すると、AIの普及はオフィス需要を減少させるようにも思えます。しかし実際には、AIが定型的な作業を担うほど、人間に求められる役割は、課題を見極め、議論し、判断し、新しい価値を生み出すことへと移っていきます。そうした活動は、オンラインだけで完結するとは限りません。
Genslerの調査でも、AIを日常的に活用する社員ほど、一人で作業する時間を短縮でき、学習や他者との協働・交流により多くの時間を割いていることが示されています。つまり、AIはオフィスを不要にするのではなく、むしろ人が集まる目的を変化させる存在だといえます。
これからのオフィスには、従来のように「各社員にデスクを提供する」だけではなく、AIを活用しながら人が学び合い、知識や経験を共有し、迅速に意思決定できる環境が求められます。若手とベテランが自然に接点を持ち、部署を超えて会話が生まれ、必要に応じて集中・会議・研修・交流を切り替えられる空間が重要になります。
その意味で、会議室、ラウンジ、カフェ、イベントスペース、学習や交流の場、さらにはビルアメニティは、単なる付帯設備ではありません。企業文化を育て、生産性を高め、採用や人材定着にも影響する重要な経営資源として、ますます重視されていくでしょう。
6. オフィスは「コスト」から「経営資源」へ
出社回帰は、単にコロナ前の働き方へ戻る動きではありません。働く場所が多様化し、AIの活用が進む時代だからこそ、社員がオフィスに集まる意味を改めて設計する必要があります。
企業にとって重要なのは、「何日出社させるか」だけではありません。出社した社員が、どのように協働し、学び、交流し、新しい価値を生み出せるかです。そのためには、オフィスの立地、面積、レイアウト、会議室、共用スペース、ビルアメニティを、企業戦略と一体で考えることが欠かせません。
これからのオフィスは、単なる作業場所ではなく、企業の生産性、創造性、人材育成、組織文化を支える場です。オフィスをコストとして捉えるのではなく、企業の成長を支える経営資源として見直すことが、今後ますます重要になるでしょう。
リダック商業部では、お客様の事業課題や働き方の方針に寄り添い、最適なオフィス戦略の立案から物件選定、移転・更新交渉まで、総合的にサポートいたします。これからのオフィスのあり方について、ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
- Flex Index(Flex Report Q3 2025)
- Kastle Systems
- Gensler Global Workplace Survey 2026
- 東京都「テレワーク実施率調査結果」(2026年4月16日公開資料)
- アスノシステム「出社回帰と会議の変化」に関する調査(2026年6月2日)
- 三鬼商事 Office Market
- McKinsey & Company “Creating a return to office policy that works”
- 日本経済新聞「米名門大の秀才を襲う就職難」(2026年6月2日)





