• 商業通信コラム

アメリカ史上最大の山火事 LA商業不動産への影響は?

今年1月に発生したロサンゼルスの山火事は、カリフォルニア州の歴史上、最も深刻な被害をもたらしました。発生から鎮圧までに3週間余りかかり、火災の範囲は200万平方キロメートルと、東京23区の面積のおよそ3分の1に相当する面積に上りました。今回は、山火事の概要とその影響について不動産に焦点を当ててお伝えします。Source: Nexstar Media   by: Travis Schlepp

山火事の概要

南カリフォルニアでは特にこの時期、強風がピークになり、山火事を引き起こす原因となっています。ただ、今回事態がここまで深刻化してしまった理由として、消火活動が長期化したことが挙げられます。時速100マイルを超えるハリケーン級の突風により火の勢いが増し1分間にフットボール場5個分という速さで火災が広がったこと、市の水道システムが広範囲の火災には十分に対応できる仕組みではなかったこと、気候変動によって気温の上昇や乾燥が進み、火災の発生リスクが各地で高まったことなど、複数の要因が重なったことを消防当局は伝えています。

米国商業不動産の大手データベース会社であるCoStarの情報によりますと、この山火事で11,200棟に上る建物が焼失しました。建物のうち、95%以上は一戸建ての住宅で、オフィス物件は26棟(総面積248,000平方フィート)、倉庫は2棟(総面積208,000平方フィート)、そのほか67棟の店舗物件などが焼失しました。

UCLA Anderson School of Managementの調査によると、この山火事で消失した建物及び資産の損失総額は950~1,640億ドルにも上ると見られています。消失した不動産価格の中央値は339億ドルと、直近の山火事の被害と比較すると被害規模の違いがよく分かります(表1参照)。

(表1)

被災者の救援や被災地の一日も早い復興に向けて、1月30日にはロサンゼルス近郊でThe FireAid benefit concertが行われました。数々の豪華アーティストが終結し、1億ドルを超える寄付が集まりました。また、日本政府や日系企業、日本の著名人が多額の支援金を寄付したことも話題となりました。

住宅価格の上昇

今後、大規模な山火事対策と長期的な投資がなければ、カリフォルニアの住宅所有者は保険料の上昇、悪化する空気の質、また山火事による有害物質の影響など健康リスクの増加を伴うと警告する経済学者もいます。ロサンゼルスでは、この災害によって賃貸市場がさらに逼迫し、住宅不足が深刻化すると予想されています。The Washington Postによるとと、ロサンゼルスでは山火事発生後、賃貸価格が全体で20%ほど上昇しています。その中でも、日系企業駐在員が多く居住するエリアの近くに位置する高級住宅地のハモサビーチでは、家賃が2倍になったというケースもあるようです。カリフォルニア州では、州または地域の緊急事態宣言前の販売価格を10%以上上回る価格を請求することを禁止していますが、ロサンゼルステナント組合メンバーのチェルシー・カーク氏は、過度な価格のつり上げに関する報告は今や1,400件以上にも上ると語っています。

このような事態に対応するため、緊急事態宣言の翌月にはPrice Gouging(価格のつり上げ)に対する罰金が$10,000から$50,000に引き上げられました。今後も賃貸市場がひっ迫すると見られています。

Source: The Real Deal

商業不動産への影響

住宅市場に大きく影響した火災ですが、商業不動産にも影響があります。具体的な影響としては、二点考えられます。一点目は、インダストリアル(倉庫)物件の需要増加が挙げられます。今後の復旧・復興にあたって、清掃活動や住宅建設が急増することで、クレーンやブルドーザーなどの設備や木材など建築資材の置き場や倉庫が必要になるだろうと見られています。そのため、特にロサンゼルス北部の山火事の影響を受けたエリアに近いインダストリアル物件のうち、屋外の土地も使えるような物件は、需要が高まると考えられています。

ご存知の通り、ロサンゼルスの商業不動産インダストリアル市場はパンデミック後に急激に需要が拡大し、2022年には空室率が2%を下回るまで低下しました。その後、毎年上昇を続け、現在では6%と過去最高の空室率を記録しています。(グラフ1参照)しかしながらこの火災により需要増が再び見込まれ、空室率は低下すると見られています。

(グラフ1)

Source: CoStar     Search: Industrial Market. Los AngelesPPT

二点目は、オフィスマーケットの変化です。CoStarによりますと、ロサンゼルス市ダウンタウンのオフィススペース空室率は過去15年を見ると全体的に上昇傾向にあり、2024年は20%超と過去最高を記録しました(グラフ2参照)。リモートワークの浸透や新しい高品質なオフィスへの縮小移転の需要が高まる中、老朽化したオフィスの空室化は問題視されています。

こうした問題を解決するため、ロサンゼルス市は、1975年以降に建設されたオフィスビルを住宅に転用する際の許可プロセスを迅速化しようと、建築基準法の改正を計画しています。慢性的な住宅不足や家賃の高騰をも解消するという画期的な取り組みで、ロサンゼルス市は2029年までに255,433戸の住宅供給を目標にしています。

ロサンゼルス市のダウンタウンで、住宅に転用できるオフィスビルがどれだけあるかは定かではありませんが、先月の山火事によって深刻化した住宅危機と、記録的な空室率にあるオフィススペースの空室問題が相まって、大規模な再利用プロジェクトの機運が高まっています。

(グラフ2)

Source: CoStar Search: Property Type – Office, Location – DTLA

最後に

ロサンゼルスでは山火事からの復旧・復興が急がれる中、地元当局は住宅再建プロセスを迅速化・簡素化する戦略を検討しています。これは、開発業者に自己の建設プロジェクトを承認し、建設中及び建設後に市の職員がプロジェクトを検査するという自己認証建築許可プログラムを導入するという試みです。また、併せて建築基準法の改正によりオフィスから住宅へのコンバージョン促進も図る予定です。時間短縮や手続きの効率化が求められる中、今後は住宅のみならず、商業不動産開発のプロセスにも影響していくと考えられてます。