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住宅不足の救世主?!今、話題のオフィスビルのコンバージョンとは!

 ハイブリッド勤務の定着と金利上昇が相まって、オフィスビルの空室率は30年ぶりの高水準で、周辺の地元経済にも悪影響を及ぼし始めています。一方で、住宅不足による家賃高騰が近年ますます問題となっています。こうした二つの問題を同時解決しようと、空いているオフィスビルを居住空間に転換できないかという試みが関心を集めています。住宅にとどまらず、ホテルや倉庫など別のビジネスモデルへの転換にも期待が寄せられています。

 

オフィス空室率の上昇と住宅不足

 不動産総合サービスのクッシュマン・アンド・ウェイクフィールドによると、2023年第3四半期の国内平均オフィス空室率は19.4%で、2019年第4四半期より6.7%ポイント上昇しました。また、2030年までに国内の3億3千万平方フィートに上るオフィススペースが空くと見ています。

Source: 「Q3 2023 US Office MarketBeat」 CUSHMAN & WAKEFIED社

 こうした空きオフィススペースは地元経済へも悪影響を及ぼしているとの懸念も見られます。コロンビア大学ビジネススクールのStijn Van Nieuwerburgh教授がニューヨークタイムズ紙に「(通勤に使用する)バスや地下鉄の使用量はパンデミック前の3分の1のレベルにまで落ちている。またオフィスの価値が下がれば、ニューヨーク市が得られるであろう固定資産税収入は50億ドル減少する」と問題視しています。周辺のレストランや小売店などの地元経済への損失も含めると、その額はさらに増えるだろうと懸念の声が上がっています。

 一方、近年は住宅不足が深刻化し、家賃が押し上げられています。フレディマックによると、国内で不足している物件は賃貸、販売向け合わせて計約380万軒にも上ると推定しています。住宅価格の中央値は419,103 ドルと、2020年1月と比べて40%上昇しました。不動産業者のRedfinによると、こうした住宅価格の上昇は住宅不足が起因しており、2018年と比較すると販売向け住宅は39%も減少しました。

 

オフィスから住宅への改築事例

 こうした中、大都市圏では空いているオフィスビルを住宅に改築することで、上記の二つの問題を解決しようと期待が集まっています。その一部をご紹介します。

【事例①】ニューヨーク:One Wall Street

証券所付近に構えるOne Wall Streetは、空きオフィスビル(1931年築56階建て)からコンドミニアム(566ユニット/ペントハウス)に改築されました。現在Studio(11億5千万円~)から3BR(42億円~)まで空きがあります。ディベロッパーは、マンハッタンでガラス張りのデザインが特徴のアップルストアを手掛けたMacklowe。One Wall Streetは居住のみならず、自然食品店Whole Foodsやジム、子ども向けジムや教育スペースなどを設けるなど、「都市の中の都市」を目指しているところがこれまでの高層住宅と一味違います。

One Wall Street (New York, NY)

 

【事例②】ダラス:NexPoint

高層オフィスビルのシティプレイスタワー(1988年築)は34 階から 41 階にある空きオフィススペースを高級アパートメント(98 戸)に転換する計画を打ち出しています。ダラスの中でもUptownに隣接するエリアに構えており、予定費用6,150万ドルに上る大規模な再開発プロジェクトです。42階建て(135万平方フィート)のこのオフィスビルは以前、62%しか埋まっておらず、周辺のオフィスビルに比べて占有率が低いことが問題となっていました。再開発プロジェクトでは、アパートメントのほか、同ビルにホテル(22室)や会議室への改築にも取り掛かる予定です。

Cityplace Tower (Dallas, TX)

 その他、サンフランシスコなどのベイエリアでもオフィスビルの空室状況が問題となっています。大手IT Meta、Alphabet、Amazon、Netflixなどは、オフィスを閉鎖したり、利用していないスペースをサブリースしており、サンフランシスコ当局は今年3月、改築プロジェクトに対して柔軟的に対応する条例を提案しました。ディベロッパーのDivcoWestはサンノゼのダウンタウンにかまえるオフィスビルをアパートやホテルに改築する予定にしており、こうした改築プロジェクトがさらに増えるだろうと注目が集まります。

 

コンバージョンに必要な5大要素

 改築プロジェクトは大都市を中心に進められていますが、当面完了が予定されているオフィスの住宅化プロジェクトの数は様々な難関があるために217件に留まっています。成功例を参考にすると、プロジェクトを実現させる上で大切な要素があります。

➀ロケーション

不動産で一番重要なのはロケーションです。ゼロからの開発に比べて改築コストが約 20% 高いと言われており、その分家賃に上乗せされるので、高い家賃を提示できるだけのロケーションが鍵となってきます。

➁物理的な特徴

ビルのサイズや形、築年数など物理的な特性も重要です。これまでの成功例を見ると、転換に最適なビルは長方形で、床面積が 8千 ~1万2千平方フィートの範囲にあります。また、老朽化が進んでいるオフィスビルの方が規模が小さいので改築に適しています。CoStarが行った国内改築プロジェクト34件を対象にした調査では、建物の築年数が平均93年でした。

➂公的支援

アーバンランド研究所が改築プロジェクト20件を対象に行った調査によると、改築にかかる一般的な費用は、1 ユニット当たり 25 万ドル~ 30 万ドルに上りました。それに比べ、集合住宅の平均市場価格は 25 万ドル弱になります。高騰する家賃問題を解決するためには、改築後の家賃が手ごろな価格にする必要があるため、公的な財政支援もしくは税制優遇措置などのサポートが必須になります。

④配管の更新

住宅への改築にはバスルームがさらに必要になることから、上下水道の配管を増築する必要があります。

⑤ゾーニングに関する規制

商業用地を住宅用地に変更するゾーニング規制に関して、柔軟な対応が求められます。ニューヨークでは、住宅への改築が認められるオフィスビルの許容範囲を拡大することが期待されています。

 

 改築プロジェクトはまだまだ様々な課題はありますが、今後政府との協力のもと、大都市圏のみならず、様々なエリアで行われ、住宅のみならずオフィスも含め供給量の適正化が期待されます。一方でオフィス契約においてはこうしたビルのコンバージョンリスクの高まりがあることを念頭に選定・交渉することが必要とされそうです。