• 商業通信コラム

米国オフィス業界で活発化する ” Flight to Quality”とは?

 今回は、顕在化するFlight to Quality(クオリティへのシフト)についてご紹介させて頂きます。

 オフィス復帰を推奨推進する企業が増える中、オフィスビル業界では近年高品質なオフィスビル(新築あるいは改築されたビル、ハイエンドのアメニティ、好立地など)の取引が増えています。コロナ禍で働き方が変わった今、オフィスでの勤務を魅力的に感じてもらいたい、優秀な人材を集めたいと、オフィスのクオリティを上げることを重要視している企業が増えているからです。

ハドソンヤード(NY・マンハッタンの新規開発エリア)

 特に、新築もしくは近年改築されたオフィスビルは人気を集めています。商業用不動産市場の情報・分析サービスを提供するCoStarによると、下記の通りマンハッタンの新築もしくは近年改築されたビル数の割合が30%であるにも関わらず、2022年のオフィスのリース取引数でみるとこれら良質のビルの取引数が全体の62%を占めました。(2018年~2021年にかけては平均45%で推移)

Source: CoStar

 

 賃料水準を見ても、新しく建設もしくは改築されたオフィスビル人気がうかがえます。マンハッタンのミッドタウンでは、一般のClass Aビルの募集賃料が平方フィート当たり$77.84/年に対し、2015年~2025年に新しく建設・改築された(される)ビルの募集賃料は$146.84/年と88.6%も上回りました。
 アメニティの充実性も重要視されており、マンハッタンに構えるオフィスビルでは幅広いアメニティを提供しているケースが多くみられます。商業不動産サービス大手のCUSHMAN & WAKEFIEDがマンハッタンのClass Aのアメニティ付きオフィスビル74棟を対象に行った調査によると、全体の半数以上にカンファレンスセンター/オーディトリアム(全体の62.2%)、ラウンジ・ソファ(58.1%)、Grab & Go食料品店(55.4%)、ジム(54.1%)などのアメニティが併設されていました。

Source: 「Flight to Quality」, CUSHMAN & WAKEFIED社

 

 同社は2022年、マンハッタンにあるオフィスビルのクオリティ別Absorption(ある一定期間における占有されたスペース面積と空きになったスペース面積の差)についての調査も実施しております。以下の通り2015年~2022年に建築された新しいオフィスビルでは、占有されたスペース面積が空きになったスペース面積を大きく(380万平方フィート近く)上回っていますが、その他のカテゴリーのビルではいずれも空いた面積の方が占有された面積よりも多くなっております。

Source: 「Flight to Quality」, CUSHMAN & WAKEFIED社

 一方で、Flight to Qualityの動きはオフィス業界に悪影響だという懸念も聞こえます。マンハッタンでは空きスペース全体の70%は新築でない、もしくは近年改築されていないオフィスビルなので、ハイエンドのオフィスビルばかりに需要が集中すると二極化が起こりマーケット全体としては回復が遅れてしまう、という指摘です。
 こうした指摘があるものの、Flight to Qualityの動きはしばらく続くと予測されています。優秀な人材を確保、維持し、革新することを経営者は望んでいるため、アメニティが豊富で高品質なワークスペースを提供することが将来的に会社の利益につながると考える企業が増えているからです。一方、オフィスビルを建設するディベロッパーやビルオーナーも、テナントに魅力的に映るようなオフィスビルを創造したり、改装することに注力するようになりました。
 テナントとディベロッパー/ビルオーナーの関係は、長い間主に取引優先で、時に利益が相反する関係が主流でありました。しかし、近年では以上のような共通の目的が生まれたことから両者の関係はより協力的なパートナーとなりつつあります。今後のさらなるFlight to Qualityの動きが注目されています。