活況を呈するデータセンター市場 ― 資金調達と供給制約の最前線
新型コロナウイルスをきっかけに急速に拡大したIT産業。近年ではクラウドサービスや生成AI(人工知能)の躍進により、データセンターの需要が爆発的に拡大しています。データセンターは商業不動産業界において、新しいアセットクラスとして注目を集めています。
データセンター不動産市場の急成長と大型資金調達
データセンターを対象とした不動産市場が活況を呈しています。データセンターの建設や拡張のため、大型資金調達をする企業が増えつつあります。
データセンター大手Centersquare(ダラス)は8億1500万ドルのデータセンター特化型債券を発行し、資金調達を成功させました。総合信用格付機関KBRAによると、Centersquareが所有するデータセンターは今年初めは26カ所(価値総額28億3000万ドル)でしたが、現在では32カ所(価値総額40億万ドル)に上ります。ここ数か月で本データセンター事業の価値は41%も増えているそうです。
また、投資ファンド最大手のBlackstone(ニューヨーク)が共同所有するバージニア州北部のデータセンターは5億5000万ドルに上るCMBS(商業用住宅ローン担保証券)融資を受け、業界の注目を集めています。同社傘下でデータセンター運営会社のQTSは15億ドルの借り換えを実施し財務基盤を強化しました。
大手通信企業であるNTT(東京)は米国資産を活用してデータセンター特化型REIT(不動産投資信託)を新設し、グローバルな投資スキームの多様化を推進しています。
大手企業による戦略的用地・インフラ確保
AIやクラウド需要の高まりに対応するため、MicrosoftやAmazonといったテクノロジー大手も大型の土地取得およびデータセンター建設を急いでいます。
マイクロソフト(世界70地域で400社以上のデータセンターを運営)のワイオミング州シャイアンの施設
Microsoft(レドモンド)はデータセンターの建設やその他のサポートシステムの構築のため、今年第三四半期に自社過去最高となる 300 億万ドルを投じる予定です。同社は世界70カ所で400にも上るデータセンターを所有しています。同社CFOのエイミー・フッド氏は「クラウドおよびAIサービスに対する需要が激増していることを踏まえ、投資を継続していきます」と話しています。
Amazon(シアトル)は200億ドルを投じ、ペンシルベニアにデータセンターを建設する予定です。このペンシルベニアでの計画を含め、同社は今年、データセンターへの投資は最低でも460億ドルに上ると発表しています。同社CEOのアンディ・ジャシー氏は今年4月に発表された株主への年次書簡にて、データセンターに多額の投資を続ける予定で、AIとクラウドコンピューティング業界で競争力を維持するためには「多額の資本」が必要だと意欲的です。
世界各地で大規模データセンター開発を手掛けるVantage Data Centers(デンバー)はデータセンター建設のために30億ドルを投じ、GoogleやApple、Microsoft などのIT大手が集まることで知られるネバダ州の地域に初めて進出します。
また、シリコンバレーではグローバ不動産マネジメントのHines(ヒューストン)が電力施設を約2700万ドル(7万2776平方フィート)で取得し、データセンター運営のためのインフラを戦略的に押さえています。
需給逼迫が不動産価値を押し上げる局面へ
データセンター不動産への需要が高まり、供給が間に合わない状態となっています。 総合不動産サービス大手のJLLによると、北米におけるデータセンターの空室率は過去最も低い2.3%まで落ち込んでいます。
Data Source: JLL Research
商業用不動産サービス大手CBREのジョン・マイゼル氏(シニアバイスプレジデント)はデータセンター不動産市場について、「供給不足が深刻化し始めている」と危惧しています。これまで以上に大規模で高度なセキュリティ対策が施され、かつ大量の電力消費を安定的に供給できるデータセンターが求められており、需給逼迫が今後の大きな課題となっています。
そのため、データセンター市場では不動産価格の上昇圧力が強まっています。こうした動きは、データセンターのみならず、他の商業用不動産市場全体にも大きな影響を与えるだろうと見られています。
不動産ポートフォリオ拡充による市場の成長持続
データセンターの市場規模は増加の一途を辿っており、今後5年で1兆ドル規模のデータセンター開発が見込まれる予測がある程です。一方で、十分な電力やセキュリティ対策、冷水へのアクセスなど持続可能な条件が課題でもあります。
今後もクラウドサービスやAIの需要増加に伴い、安定した収益を見込めるデータセンター不動産は、主要な投資先として存在感を強めていく見込みです。