• 商業通信コラム

トランプ政策、商業不動産にも激震か

トランプ政権による経済政策や経済情勢への警戒感が日々高まる中、世界情勢は緊迫しつつあります。商業不動産市場も様々な影響を受け始めており、今回はその状況についてまとめました。

建設コストの高騰

トランプ政権による関税措置が発動されたことを受け、金利調整により落ち着きを見せていた建築資材価格が高騰し民間開発プロジェクトが停滞しています。

The Associated General Contractors of America(AGC)によると、2025年3月の鉄鋼製品の価格は前月から7.1%上昇、アルミニウム製品は5.1%上昇、そして木材・合板は2.7%上昇しました。労働省労働統計局(Bureau of Labor Statistics)が発表した生産者物価指数レポートによると、今年5月の建設コストは関税政策の適用が開始された2025年2月と比較して約4.36%上昇しました。

また建設コストの上昇を受け、様々な分野での開発プロジェクトの停滞が目立ち始めています。北米最大級のプレコンストラクション・ソリューション企業であるConstructConnectによると、今年4月に保留となっている民間開発プロジェクト数は昨年同月から40%上昇、中止となった開発プロジェクト数は14.1%上昇しました。

建設コストの上昇のほか、関税措置によるインフレを受けて金利上昇や投資コストの上昇を懸念する声も高まっています。また、移民政策が厳格化される中、労働力不足による賃金の上昇や工期の遅延などを危惧する声もあります。混乱する経済・世界情勢も相まって、不動産市場は厳しい局面を迎えるだろうと危機感が強まっています。

激震する商業不動産市場

こうした危機感から、商業不動産開発の遅延・中止が増えつつあるほか、各不動産市場では様々な打撃を受けています。

Industrial(工業用)不動産市場では、倉庫オーナー最大手のPrologis(San Francisco)を始め、大手のRexford Industrial(Los Angeles)やFirst Industrial Realty Trust(Chicago)が相次いで、リース取引の「凍結」や開発を見送る動きを見せています。Prologisでは開発費を30%削除し、15〜20憶ドルまでに引き下げました。また、港における交通量の減少やコスト上昇を受けて、倉庫特化型不動産投資信託(REIT)から撤退する投資家も増えています。

リテール(小売)不動産市場では、関税率の高い中国からの輸入に頼る家電製品やスポーツ用品店など、関税措置が直接的に影響を及ぼしている小売業者も見られます。こうした輸入コストの増大や、商品価格上昇による消費者マインドの落ち込みから、不動産取引が停滞し始めています。

不動産サービス大手のCushman & Wakefield(以降、C&W)によると、リテール不動産の需要は落ち込み、ネットスペース吸収率は2025年第一四半期、マイナス(590万平方フィート)に転じました。これは2020年第3四半期以来、四半期として最大の落ち込みとなりました。米国内リテール不動産の空室率は5.5%と、昨年から20ベーシスポイント上昇しています。

出典:C&W Retail Q1,2025

パンデミック後に回復が見られつつあったオフィス不動産市場でも、賃貸・売買取引が停滞しつつあります。C&Wのマーク・ワイス執行副会長は、「事態が悪化する前に、長期リース契約を結んだり、建物を購入したり、資本を投資したりする最後の人になりたいと思う人は誰もいません」と、慎重な姿勢を示しています。

好調な不動産物件とは

こうした厳しい局面にも関わらず、好調な不動産物件もあります。それは「高品質」なオフィス物件およびリテール物件です。

BXP(Boston)、Vornado Realty Trust(New York)、Hudson Pacific Properties(Los Angeles)など、クラスAオフィスビルを手掛ける国内最大手のオフィスオーナーによると、関税措置や金利上昇にも関わらず、2025年第一四半期におけるリース需要は安定していると強気の姿勢を見せています。Hudson Pacific Propertiesのビクター・コールマン最高経営責任者(CEO)は「これまでのところ、関税措置への懸念から取引が減少するということは見受けられない」と述べています。

CBREによると、2025年第一四半期におけるクラスAオフィスビルの空室率は13%に対し、その他のオフィスビルでは19%に上りました。
また、建設が滞っているため、「高品質」な改修済みの既存リテール物件の需要が高まっています。中でも、オープンエア型リテール物件が機関投資家に高く評価されており、世界最大の商業不動産オーナーであるBlackstone(New York)による40憶ドルにも上る大型買収もありました。「高品質」な物件では、テナント需要が供給を上回る状況が続いており、オーナーが強気な価格、契約条件を提示、維持できる構造が明確化しています。

最後に

トランプ政権による経済政策から将来の見通しがつかず、回復しつつあった商業不動産取引が全体的に停滞している中、「高品質」な物件への需要は強いようです。厳しい局面はまだまだ続きそうですが、トランプ政権による経済政策が長期的には不動産市場にどのように影響を及ぼしていくのか今後も注目が集まります。