数字が語る!米国オフィス市場の今後の展望
昨年10月の商業通信でオフィスマーケットの回復の兆しについて第一報を報じましたが、今回は様々な数字を背景に改めてその続報をお伝えしたいと思います。
Source: CoStar
オフィスマーケットの回復
米国内の主要なオフィスマーケットは、2025年に入ってからも好調に推移しています。商業用不動産調査機関CoStarによると、第1四半期のオフィスのリース取引総面積は1億1500万平方フィートと、前四半期対比で13%増を記録し、2019年中期以来の高水準を記録しました。
依然として、フレキシブルな働き方を求める動きから、各々の取引面積は小規模な傾向が続いていますが、それを上回る勢いで取引総面積が増加したことは、オフィスマーケットでは大きな回復の兆しと見られています。
不動産革命の中心地ニューヨークの目覚ましい回復
米国内の中でも、ニューヨーク市のオフィスマーケットは特に目覚ましい回復を見せています。CoStarによると、2025年第一四半期には、オフィスの空室率が80ベーシスポイント低下し、これは主要都市の中で最も急激な減少を記録しました。この減少率は全国平均の10ベーシスポイントを大きく上回っています。(グラフ1)
※「ベーシスポイント(Basis Point)」は、金融や不動産業界でよく使われる単位で、主に割合の変動を示すために使います。1ベーシスポイントは「0.01%」に相当します。例えば、金利が1%から1.5%に上がった場合、これは「50ベーシスポイントの上昇」と表現されます。
(グラフ1)
ニューヨーク市では2025年の初めの時点で、720万平方フィート(契約件数は960件超)のオフィススペースがリースされました。その多くは、金融やテクノロジー関連企業によるものでした。Mizuho銀行はオフィススペースを15万1,409平方フィート拡張し、スペインの大手銀行サンタンデールは19万1,667平方フィートに上るリース契約を更新しました。Amazonも19万3,431平方フィートのサブリース契約を結び、IBMは9万2,663平方フィートの拡張リース契約を結び、総オフィス面積を36万2,092平方フィートに増やしました。
取引件数や取引面積の増加により、ニューヨーク市の不動産税収は2024年に過去最高を記録し、都市の財政において重要な役割を果たしています。2024年の不動産税収は約370億ドルに達し、これはニューヨークの地方収入の49%を占めることが、ニューヨーク不動産委員会(REBNY)の調査で明らかになりました。これらの収入は都市の経済的な健全性を支えています。2025年には、不動産税収が400億ドルを超える見込みです。
しかし、すべてのオフィス物件が需要回復を経験しているわけではありません。アメニティが充実した立地の良い「高品質」なオフィスビルは需要が高い一方で、「低品質」なビルは依然として回復の兆しが見えない状況で、これは不動産担保ローンを持つ銀行や投資家にとって脅威となりえます。CoStarのオフィス分析担当ナショナルディレクター、フィル・モブリー氏は「魅力的なビルの所有者にとっては最悪の時期は過ぎたと思いますが、魅力的でないビルはテナントを失い続けるかもしれません」と指摘しています。CBREの報告によると、2024年末には、「高品質」なオフィスビルの平均空室率は15.3%だった一方、「低品質」なオフィスビルの空室率は19.2%に上りました。
リードするのは金融やテクノロジー産業
サンフランシスコでもオフィスマーケットの回復が見られます。CoStarによると、2025年第一四半期における金融街のリース取引面積は約100万平方フィートに上り、2019年以来最大となりました。(グラフ2)
(グラフ2)
その中でも特に、クラウドベースのデータおよび分析プラットフォームであるデータブリックスのオフィス移転が大きな注目を集めました。同社は、現在のオフィス(5万8,000平方フィート)から別のオフィス(15万3,000平方フィート)に移転する予定で、これは第1四半期で金融街における同地最大の取引となりました。一方、金融街に隣接するミッションベイ地区でもAIスタートアップの活動が活発で、OpenAIは48万6,000平方フィートのリース契約を結びました。テクノロジー産業の好調が続けば、サンフランシスコのオフィスマーケットは低迷から脱し、急激な回復を見せるだろうと期待されています。
バイオテクノロジー産業が盛んなボストンでも、2025年第1四半期に大きな回復が見られました。(グラフ3)特に、バイオジェンがボストン郊外のケンブリッジに58万平方フィートに上るオフィススペースをリースしたことが主導しました。
(グラフ3)
オフィスマーケットの復活は確実か?
都市部では出勤率の増加が見られるなどオフィス需要は好調に推移し、オフィスマーケットは回復するだろうと見られています。特に急速に成長を遂げるテクノロジー産業や金融産業がオフィスマーケットを牽引すると期待されています。
ただ、その回復のペースと持続可能性は、都市ごとに大きな違いが見られます。また、すべてのオフィスビルが同じように回復するわけではなく、「低品質な」オフィスビルは引き続き空室率の高さが問題と指摘されています。
今後もエリアやその特徴に合わせてマーケットにおける需要と供給のバランスを慎重に見守る必要があります。