• 商業通信コラム

オフィスはこれからどうなる?!~金融不安・経済・働き方が与える影響とは 

 連邦準備制度理事会(FRB)は5月初旬、0.25%の利上げを決定したと発表しました。去年3月にゼロ金利政策を解除して以来、FRBの利上げは10回連続となりました。政策金利は5%から5.25%の幅となりましたが、これは2007年9月以来最高値となっています。景気後退への不安もある中、約40年ぶりにインフレ鎮圧を目的にした金融引き締めが行われていますが、不動産市場はどのような影響を受けているのでしょうか。商業不動産業界大手の動向や、逆境に立ち向かう大手オフィスやショッピングモールのオーナーの画期的な取り組みをご紹介したいと思います。

 

 昨年夏より、FRBによる利上げやインフレ、景気後退への不安を背景に、資本コストが上昇し、商業不動産需要が減少傾向にありました。今年に入り銀行の破綻が相次ぎ、銀行の貸出基準がさらに厳格になったことで、不動産需要はさらに深刻化しています。「資産価値の下落は10~15%と見積もっており、今後さらに下落する」と見るアナリストもいます。

 商業不動産における供給面も厳しい状況に置かれています。新型コロナウイルスの流行やウクライナ情勢などの国際的な混乱も相まって、製造業のサプライチェーンが通常に機能しない上、部品不足という問題も絡み、建設業界はスローダウンしています。

 需要と供給が低迷した結果、CoStarによると、2023年第1四半期における商業不動産取引が昨年同期と比べて55%減少しました。商業不動産市場は過去10年間で最も厳しい局面を迎えていると言われています。

 こうした中、商業用不動産サービス大手は先日、第1四半期決算リポート発表しました。各社とも厳しい結果となりましたが、生き残りをかけて柔軟に対応している様子が伺えます。

 CBRE社のCEO兼社長であるボブ・サレンティック氏は、利上げやインフレ、景気後退への不安のほかに、「オフィス需要の停滞(IT業界などでの人員削減やオフィス出社への従業員による抵抗)も問題」と不動産業界を取り巻く現状を分析しています。SNS世界最大手のIT大手フェースブックをかかえるメタ社は世界中でオフィスを縮小、アマゾン社やマイクロソフト社もオフィスにかかるコストを削減し始めています。

 一方、Colliers社 のCEOであるジェイ・ヘニック氏は、「利上げと資本へのアクセスの厳格化は、買収や主要な人材の採用、新しい成長において大きな利点をもたらすだろう」と、逆境をチャンスに変える前向きな姿勢を見せています。

 その他商業用不動産大手は、「経済情勢の改善で商業不動産取引が増えるのには、少なくとも今年後半まではかかる」との見通しを立てています。

 

 オフィスのオーナーやショッピングモールのオーナーも「高級志向」、「複合施設」に関連した新しい動きを見せています。

 オフィス・オーナー大手のBoston Properties(ボストン)社は、利上げやインフレ、オフィス需要の低迷に対抗する方法として、ハイエンドオフィスへの転換を重要視しています。同社CEOであるオーウェン・トーマス氏は、「従業員をオフィスに引き戻すためには、オフィスをアップグレードする必要がある」と述べています。

 同社は、人員削減が目立つIT業界やライフサイエンス業界ではなく、経済成長を続け、新しいオフィススペースを必要としているプライベートエクイティや資産運用会社、その他の金融サービス会社をターゲットにするなど事業の再構築に努める動きも見られます。

 国内最大のショッピングモールを展開しているSimon Property Group(インディアナポリス)社も新しい取り組みを始めています。ハイエンドのお客様を引きつける、小売業の枠を超えた多彩なサービスを提供することで、買い物するだけでなく、暮らしを支え、仕事をし、楽しむための「複合施設」の建設に力を注いでいます。ジョージア州アトランタのバックヘッド地区にあるフィップス・プラザがその一例です。ホテルやレストラン、トップクラスのオフィスタワー、高級フードコートを兼ねそろえた「複合施設」として成功を収めています。

 不動産投資トラストのUrban Edge properties(ニューヨーク)社は、ニュージャージー州パラマスにあるショッピングモールにアパートの建設を予定しています。ヨーロッパでもショッピングモールを展開しているUnibail-Rodamco-Westfield(ドイツ)社やPennsylvania Real Estate Investment trust(フィラデルフィア)社なども「複合施設」の建設に乗り出しています。

 

 また、築古オフィスビルをアパートに再生させるという動きも出てきました。オフィス縮小の動きが加速し、オフィスの「高級志向」が進む中、特に老朽化したオフィススペースが空になるケースが増えています。在庫を多く抱えるニューヨークでは昨年、市長のエリック・アダムズが、「空きビルが市の経済回復に悪影響を及ぼしている。オフィスの従業員が減ることで、近隣のレストランやドライクリーニング店、小売店の利用が減る」と、主要な雇用主に従業員をオフィスに呼び戻すよう求めました。しかし、オフィスビルのセキュリティシステム大手Kastle社のデータによると、オフィスの利用率は47.9%とコロナ前よりまだ半分以下となっています。そのため、オフィスや住宅、エンターテイメントを兼ね備えた「複合施設」が建設されれば、オフィスに復帰する人も増え、経済も活性化するだろうと期待が寄せられています。

 インフレや利上げ、景気後退などネガティブ要因の多い環境下で、2024年の回復を目指し新たな取り組みが今後どのように発揮するのか注目が集まっています。